許嫁(いいなずけ)・壱

夫婦喧嘩? /幕間 18

side 夏目伊都






後部座席のスモークのかかった窓から見送りの人達を見詰める。

若頭に若頭補佐。松江の要に側近達。
皆の健康を預かる弥生さん、組をあげての見送り。


松江の人達の心尽くしだ。







「なんだか申し訳ないわ。」



ポツリとこぼした呟きは、運転席の若い人に拾われたらしく、




「伊都さんは松江の大切なお客様ですから、お気になさらないでください。」




優しく笑って言われた。
確か岩泉と言う人。普段は若頭補佐付きなのに私の運転手を買って出てくれた。彼にも迷惑をかけてしまう。きっと。









「本当にいいんですの?」




確かめるように聞いたのは優しく笑う運転席の若い人にではない。




「もちろんです。」




ルームミラー超しに私を見た岩泉さんの優しい目に思わず目を伏せた。




困ったわ。




罪悪感がハンパない。












国産車とは言え用意されたのはグレードの高い高級車。
長距離に耐えられるようにと、車内の空間は広々としている。

老女1人には贅沢過ぎる。



「時間かかりますから、疲れたら遠慮せず横になって下さいね。」




「…ありがとう。」





本当に困った。




私は空いている後部座席の、隣のスペースの足元に視線をおとした。




そこには如何にも怪しい大きな塊。
全体を被う大きなタオルケットは何処から持ち出したのか。





豪放磊落だと噂の松江匠吾の許嫁になった時、私は本気で彼に寄り添う気になった。


匠吾さんは破天荒だが魅力的な人で、女癖は悪かったがそれを除けば申し分ない人だった。

色々あって複雑な相手。

でももう50年。

色々な感情は既に風化した筈なのに。







「頼まれたら嫌とは言えないんだから…」





そこに恋愛感情は無いが、私も大概優柔不断だ。








「ちゃんと後で説明して下さいね。約束ですよ。」






私はため息を付くと運転手の彼に聞こえないように囁いた。









side 夏目伊都 end








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