君に惹かれ、君を恋う【完】

第三楽章 /ヨモギ



ジ―ジー。ミンミン。

都会の倍近く、否、それ以上はいるであろう蝉が耳五月蠅く鳴いている。

その鳴き声は都会で聞く人工的な音ではなく、自然の音で、聴いていると懐かしく、至極落ち着いた。

そして、都会とは違って電車やバスのスカスカな時刻表を見て、田舎だなあ、と笑みが零れた。



「どこに行っても、暑いなあ」



吹き出す汗を拭いながら田畑の見える懐かしい道を歩く。



「でも、こっちの方がやっぱり涼しいな」



河川沿いを歩きながら呟く。


そこの川の音と見渡せば簡単に見える青い山が、清涼感を更に与える。

あぁ、落ち着く。落ち着くなあ。

都会ではこんな当たり前な音も景色も、貴重なんだ。


思いながら歩いていれば川に架かっている橋の下にいる、見慣れた人が目に入った。



「……柊汰?」



小さい頃から言いなれた名前を呟き、再度少し離れた彼に声をかけようと息を吸ったその時、この世の終わりかと思う程の、私にとっては衝撃的で、信じがたいシーンを目の当たりにしてしまった。
 

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