君に惹かれ、君を恋う【完】

第二楽章 /サクラソウ


「薺ちゃん、コーヒー。斎藤さんね」



マスターはそう言いながら淹れたての香りのいいコーヒーが入ったカップとソーサを、私の持っていた丸いトレーに乗せた。

それを零さないよう神経を研ぎ澄ませて運ぶ。



「お待たせしました」



私はその言葉と共にソーサの上にカップを乗せて、いつもご贔屓にしていただいている斎藤さんの前にそっと置いた。



「お、ありがとう」



言って白髪交じりの紳士はカップを持ち上げ一口、飲む。



「やっぱりここのコーヒーは美味しいから来るのをやめられないな」



笑って彼は言い、



「はは、嬉しいこと言ってくれますね」



マスターは心底嬉しそうに言葉を返した。


二人は他のお客様もいるというのにテーブル一つ分開いた距離で当たり前のように会話する。

しかし、それが許されるほど、このカフェの雰囲気はいい。

常連さんが殆どだからなのかもしれないけれど、初めて来る方もゆっくり出来るほどこのカフェの空気はゆったりとしている。


私の好きな場所の一つだ。
 

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