無敵のビーナス 1【完】

走り出せ! /12

「でね、そのA君ね。別に頭文字が『あ行』って訳じゃないからね」


言わないと言った手前、イニシャルトークを繰り広げる私の話を静かに聞いてくれる空ちゃん。


なんだかんだ言って、心の広い彼に感謝しつつ私は話を進めた。


「で、そのAって誰だよ」


ドアの開く音しなかったのに・・・


帰宅後、着替えに部屋に戻っていた翔が不機嫌な声で気配無く戻って来た。


「って・・・えっ」


視線を翔に向けた私は、その姿に眼を大きく見開いてしまう。


これは・・・暴走族の正装なの?


素肌に真っ白なさらしを巻いた上から羽織られた、その特攻服?


実際に見るのは初めてだけど、何となく知識としては知っていた物を羽織る翔に、私は言葉を失って固まってしまう。


藍色のサラサラな髪は後ろに撫でつけられ、いつもは見え隠れしているピアスがハッキリと確認できる。


そのピアスがキラリと光る度、翔からダダ漏れ状態のフェロモンが増しているような。


その不機嫌な表情までもが、やけに色っぽくカッコ良い。


ヤダ、まともに見れない。


「おい、何で眼ぇ逸らすんだよ」


そんな私の気も知らずに、大股で近づく相手に私の心音は最高潮。


それを空ちゃんは、どんな眼で見ているかなんて。


考える余裕も無かった。


「おい、亜美?」


少しだけ甘く響く声音が、余計に怖い。


恐怖の怖さではなく、それこそナンバー1ホストに魅了される瞬間のような。


そんなドキドキ。


カーッと熱が集中していく顏からは、今にも火が噴き出しそう。


翔の顏は見慣れたつもりになっていたけど、普段とは丸っきり違う印象の。


その、男っぽい出で立ちにドキドキし過ぎて。


「なに無視ってんだ?」


ソファーに座る私の傍らに膝を着き、俯く私の顔を覗き込む漆黒の瞳。


「もうっ」


恥ずかしさから逃れるように、勢い良く伸ばした手は近距離過ぎて


「っ、てめぇ~」


翔の顔面に見事にヒット!


地を這うような低音に、今度は激しい恐怖で心臓がドクドク騒ぎ出した。


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