無敵のビーナス 1【完】

走り出せ! /13

「昨日の夜、凄かったよね」


昼休み、いつものベンチで隣に座ってサンドイッチを頬張っていた愛美が、思い出したように呟いた。


「えっ」


「えって・・・まさか、起きなかったの?!」


一瞬、何の事だか分からず驚きの声を上げた私を見る愛美は、呆れ顔を向け


「警察が暴走族を追っかけてて、凄い音だったのに・・・亜美、起きなかったの?」


信じられないとばかりの声音を滲ませ、私に問うように話し始める。


その内容に、昨夜、夢現に聞いた騒音を思い出した。


そう言えば、翔も走りに行ったけど。


今朝会わなかったけど、翔の本当のマンションじゃないし・・・大丈夫だよね?


警察の文字にドキドキと心拍数を上げつつ、私は安心したくて必死に言い訳を探してしまう。


それに暴走族って言っても、燃夜だけじゃないだろうし。


考えながらも不安が膨らむ中、愛美が追い打ちを掛けるような一言を口にした。


「暴走族同士の大喧嘩があって、救急車とかまで出て凄かったらしいよ」


「大喧嘩って・・・」


警察に捕まるのも心配だけど、喧嘩だなんて。


しかも救急車まで出動していたなんて、私は手にしたフォークを動かすことも忘れて視線すら動かせなくなった。


翔に限って・・・


そう思いながらも、胃の辺りを変な重みが襲い食欲が消え失せる。


「えっ、どうしたの?大丈夫?!」


言葉を失くした私に、愛美がオロオロとし出すけど「大丈夫」と力なく答える事しかできず、余計に心配させてしまう。


そして気付けば、私は半ば強引に保健室に連行され、真っ白なカーテンで仕切られた硬いベッドに寝せられてしまった。

0
  • しおりをはさむ
  • 747
  • 764
/ 509ページ
このページを編集する