きす X はぐ【完】

きす Ⅹ はぐ /あずさの悪夢




日曜日の午後。


今日は、お父さんとお母さんと一緒に市内の大きな百貨店に向かっている。


あおば兄ちゃんは、いつも通りお仕事に、あさひ兄ちゃんは学校に部活のバスケットボールをしに行ってしまった。


だから、今日は三人で来年の春から中学生になる私に必要なものを買うため、車を走らせている。



「お父さん、あとどれくらいで着くのー?」

「んー、あと10分くらいかな?」



少し無口で、でもすごく優しいお父さん。ハンドルを握りながら、少しだけこちらに顔を振り向かせて笑う。



私はふーん、と口を尖らせて、酔いぎみだった体をシートに倒した。



「あ、あずちゃん。もうすぐ着くんだから寝ちゃダメよ?」


「分かってるよ、おかあさん」


座席の間から顔を除かせて、困ったようにそう言ったお母さんに目を擦りながら答えた。


明るく優しいおかあさん。美容師をしていて、長い焦げ茶の髪を後ろでひとつに結んでいる。



大好きなお父さんとお母さんを独占できて、今日はすごく嬉しい。



お母さんの背中に座席ごと抱きつくと、「あずさは甘えん坊ね。」と呆れられた。



「ちゃんと中学生になれるのかしら。」


「大丈夫だよなー?あずさ。
あずさはしっかりしてるし。」


「あなたっ、どこがしっかりしてるのよー。この子、包丁も握れないのよ?


...まだまだ手がかかるわ。」



怒られているような気がしたけど、お母さんの顔はすごく優しく、愛しそうに微笑んでいて。


反論することなく、唇を尖らせた。



「うちの一人娘だから、ついつい甘やかしちゃうのよね。だって、可愛いじゃない?うちの子。」


私の頭を優しく撫でながら、お父さんに話しかける。


お父さんは、楽しそうにクスクス笑った。


「親バカだな。」


「あなたもじゃないっ!」



お父さんとお母さんの軽い言い合いを聞きながら、後ろでクスクス笑った。



楽しい日曜日。中学校の入学式を控えて、希望に溢れた2月のある日だった。





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