初恋みるく【完】

3rd:恋が重なる時 /ペアルック

暑かった夏が過ぎ、あっというまにトレンチコートを羽織る10月。

入社してから半年が過ぎた。


律先輩の仕事はひと段落ついたらしく、最近は定時で上がれることが多くなってきた。



今日は一緒に帰れるかな…そんなことを思いながら終業間近に社員の湯呑みを集める。


「お、心愛ちゃん!それ!」


「え?」


菊池さんのコップを下げようとしたときにかかった声。

いきなりの呼びかけに、慌てて〝それ″を探す。


「それだよ、それ!クマのキーホルダー!」


「ああ!」


菊池さんが指差したのは、私のポケットからはみでたクマのキーホルダー。


それは、つい最近一目惚れで購入した一品だ。

購入した雑貨屋さんには大きなポップで『大人気中!』と表示されていた。


「可愛いですよね!このキャラクター!つい、一目惚れで買っちゃいました」


ポケットからキーホルダーを取り出して揺らしてみせると、菊池さんもニコリと笑い、胸ポケットから車の鍵を取り出した。


「じゃーん、俺もこの間買ったんだよ」


それは、私と色違いのキーホルダー。

男の人には可愛すぎるキーホルダーを見た目のゴツい菊池さんが満面の笑みでこちらに向けている。


その姿はなんだかちぐはぐで逆に可愛らしい。


「お揃いですね!今人気ですもんね~」


そんな会話をしていると、背後から革靴の音が近づいてきた。


「なんか、楽しそうですね?」


振り向けば、いつもの猫かぶり笑顔の相沢部長。


「お、部長聞いてくださいよ!
ほら、これ!心愛ちゃんとお揃いなんですよ。」


「き、菊池さん…はは」


自慢げに私のスマホと自分の鍵を一緒に揺らす菊池さんに、一瞬だけ部長の目の奥が陰る。


「へー、菊池さん随分可愛らしいもの持ってますね?(顔に似合わず)」


爽やか笑顔の裏が怖い。
当たり障りのない発言に続く、嫌味の言葉が耳に伝わる。


「じゃあ、高梨さん。
終業まであと少しだよ?コップ下げ急いでね。」


「あ、はい!
申し訳ありません、急ぎます。」


慌てて一礼して、他何名かのコップをお盆に乗せて給湯室に急いだ。



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