初恋みるく【完】

4th:恋は狂おしい /孤独の悲しみ

黒い喪服を身をまとい,段々とざわつき始めた斎場の外にたたずむ。


少し遠くの方で,泣き声が聞こえる。


この空間は,何度か体験したけれどやはり,慣れるものではない。


俺は,いま実家近くの斎場にいる。
佐月の母親の葬儀に参列するためだ。


佐月には,母親以外の身内がいない。


父親は,佐月が5歳のときに他界した。
交通事故による急な死だった。


俺は,その時3歳くらいだからおじさんのことは覚えていないが,
両親が言うには真面目で,人がよく,有名な編集社に勤めるサラリーマンだったらしい。


父親が亡くなってからは,専業主婦だったおばさんが外に出て働いた。
もともと体が弱かったのにも関わらず,佐月を育てるために。


俺の母とおばさんは高校時代からの親友で,仕事でおばさんの帰りが遅くなる時には,よくうちで夕飯を食べていた佐月。


物心ついたときから一緒にいたせいか,佐月とおばさんは俺の中ではほとんど家族のような存在だった。


…祖父や祖母以外の親しい人の死。


佐月から連絡が来た時には,頭が真っ白になった。


俺の記憶の中の,美人で,いつも優しいおばさんの笑顔は,もう見ることができないなんて…


ここに来るまで信じられずにいた。



しかし,斎場の前に立つ看板に書かれた名前を見て,妙に冷静にその事実を受け入れられた。



心に穴が開くような感覚。

悲しい気持ちはあるのだが,頭が空っぽで何も考えられない。



懐かしい地元の景色を見ながら,無意識にスマートフォンを手に取る。


ロックを解除すると,通知センターに1件メッセージが届いていた。


…心愛からだ。





“律先輩,無事着きましたか?”




なんて事のないメッセージ。
なのに,無性にふっと心が温かくなった。



彼女に会いたくなった。

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