初恋みるく【完】


斎場に戻ると、背中を丸めて棺桶の中を覗き込んでいた。


何も言わずに、ゆっくりと近づくと、気配を感じ取った佐月がこちらにちらりと視線を送って、すぐにまた棺桶の中のおばさんを見つめた。



「佐月…?」


「…」



何も言わない佐月の横に腰をおろして、佐月と同様に中を覗き込み,おばさんに対面する。


俺の知っているおばさんとはかけ離れた風貌に何とも言えない悲しみに胸がつぶされそうになる。


目がしらが熱くなり、気を抜けばいつでも涙が出てきそうだ。


俺でさえこんななのに、佐月はボーっとおばさんの顔を見つめ、涙の一つも見せない。



「……」


「律くん。お母さんはね、昔から私の自慢だったんだ。」



表情を変えないまま、口元だけ動かす佐月は“放心”という言葉がぴったりだった。



「美人で、優しくて…みんなにいいなって羨ましがられてた。
でもね、見て?」



そう言って、佐月はおばさんの白くこけたほほに触れる。


「こんなにこけて、顔にもいっぱいしわが出来てね。腕だってこんなに細くなっちゃてる。」


「…」


「このしわはね、お母さんが苦しんだ証なの。
辛くて顔をしかめながら、生きようと頑張った証なの。

この細い腕に、たくさんの針を刺してね。
最後は点滴で生き延びてた。

お母さんの白くて細い綺麗な腕は、そのせいでこんなにキズができちゃってね。」


次第に、佐月の声が濡れていく。
おばさんの髪をなでながら,一粒。その手に涙が伝う。



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