キスと嘘と甘い火遊び

帰り道と嘘と甘い火遊び /読者5,000人様感謝*記念

「有村さん?」

「あ、葉山さ……じゃなくて、副社長」

「どうしてあなたが本社に?」

「実は本日支店に見えるはずだった担当の方が急遽都合が悪くなったらしくて。資料だけでもお渡ししたくて伺いました」

「FAXでも構わないのに。こんな遅くまで時間を割いても本社訪問は残業にならない」

「わかっています。でもどうしても直接説明したい箇所があったので。結局、担当の方は戻られていなくて伝言になってしまいましたが」

「そう。有村さんらしい」

「そうですか?」

「うん、とても。ところで………今から帰るところだよね?」

「はい」

「実は私もなんだ」

「みたいですね。お疲れさまでした」

「ありがとう。来るときは類川駅から?」

「はい」

「そう。じゃあ行こうか」

「………はい?」

「私も今日は類川駅から帰るよ」

「え、でも幹部クラスの方って確かお車でご出社なされてますよね?」

「その通り。でも運転手は私といないと死んでしまう病でもあるまいし、今日の帰りくらい違うルートで帰っても怒られはしないよ」

「でもわざわざお金を払って電車に乗らなくても…」

「あなたを1人で帰すとしたら上司としてはタクシー代を出さざるを得ない。それよりは自分の交通費を払う方が合理的だと思うけど」

「…、」

「それとも私と帰ることが、嫌?」

「まさか!」

「え?」

「………あ、えと、嫌では、ないです」

「そっか(…っしゃあ!)」

「…はい」

「じゃあ帰ろう」



『帰り道と嘘と甘い火遊び』



「有村さんのファーストネームって何だっけ?」

「梨沙子、です」

「………………有村さん」

「はい」

「………………有村さん」

「はい?」

「………………名前、で呼んでも?」

「え、」

「ねえ、いいよね?」

「………はい」

「じゃあ……り、り、…」

「(葉山さんって女遊びが上手いって噂だったよね?)」

「り、り、い」

「……あの、そんな無理しなくても」

「り、い、って呼んでもいい?」

「え、はい、………どうぞ」

「りい、りぃ。うん、呼びやすい」

「…ふふ」

「…………何で笑うの」

「いえ」



“りぃ”というあだ名はヘタレの結果って話。



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