キスと嘘と甘い火遊び

その2、嘘

翌日の夕方、夕飯を作っているとインターホンのチャイムが鳴り響いた。



「はい」


“………葉山です”



受話器を取ると、穏やかな葉山さんの声が耳に滑り込む。

その声音がいつもより少し硬い気がして、わけもなく感じた不安に急かされるように玄関のドアを開けた。



「葉山さん、」


「りぃ」



互いに名前を呼び合う。でも恋人らしく見つめ合っているわけじゃ、ない。


眉を寄せて私の鎖骨辺りを睨むように見ていた葉山さんが不意に足を踏み出した。

慌てて後退しようとした私の腕を掴んで、乱暴に引き寄せる。


息が止まるような衝撃を背中から感じたときには、閉まったドアに押し付けられてキスをされていた。

誘うように唇を舐める舌。

酸素を求めて薄く開いた唇から柔らかな舌が入り込んできて歯列をなぞる。



「……んッ……葉山、さんっ……待っ、」


「無理、待てない」



噛み付くように唇を覆う、葉山さんのそれ。

拘束されているわけではなくて逃げ場ならあるのに、考えることよりも快楽を優先させた私は目を閉じてキスを受け入れた。



「りぃ、好きだよ」


「………んッ、……」



ギュッと抱きしめてくれる腕は本当に愛されていると錯覚してしまうほど優しくて。


“愛してる”


頭を過ぎったそのセリフを声に出して言ってしまいたくなる。

葉山さんは笑うかな、泣くかな。それとも、離れていってしまうのかな。


キスは深くなるのに対して頬を撫でるだけで先に進まない手に、ゆっくりと瞼を上げる。

今度は目が合って葉山さんは少し笑った。泣きそうに、苦しげに。



「りぃ……」


「どうしたの?今日の葉山さん、なんか、」


「話したいことがあるんだ」



今日の葉山さん、なんか変だよ、と言おうとした言葉は遮られる。

聞いてはいけない。なぜか、そう、思った。


それでも頷いて葉山さんに背中を向け、リビングを目指したのは怖かったから。

いつもと違って弱々しげな彼を受け止めなければ、彼は壊れてしまう気がした。



「そこの椅子に座って?お茶淹れるね」


「………いや、いいよ。りぃも座って」



やっぱり今日の葉山さんはおかしい。

それでも素直に向かい側に座ったのは、話の内容がわかってしまったからかもしれないね。


口元を片手で覆って視線だけで斜め下を見ていた葉山さんの眸が私を映す。

空気が僅かに震えた。



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