キスと嘘と甘い火遊び

「いや、キスだけじゃなくて。抱きしめるときも名前を呼ぶときも、イくときも。りぃはいつも俺のことなんて見てない」


「そんなこと、ない」



眉を顰めて反論する私に黙って微笑む葉山さんが「もう最後だからいいけど」とそう言っている気がして悔しかった。



ねえ、葉山さん。どうすれば伝わるの?

私の想いは、好きは、どんな言葉に変換すれば口に出しても許されるのかな。



あなたが好きで、愛おしくて。

ただそれだけなのに私はまだ、この気持ちの名前を見つけられていない。



「葉山さん、…ギュッてして」


「なんか今日のりぃはらしくないな」



そう笑いながらも葉山さんは暖かい体温で包み込んでくれる。

さっきも言われた通りに目を閉じた私がいつも考えることを彼はきっと知らない。



抱きしめられたとき、名前を呼ばれたとき、愛に溺れるとき。

目を閉じて想像するんだ。



もしも1つだけ願いが叶うなら、私は何を願うのかなって。

葉山さんは、……何を願うだろう。


きっともし本当に1つだけ叶うとしたら、葉山さんの願いに私は含まれていないと思うんだ。

でも私の願いは葉山さんが幸せになることだから構わない。



そう思って微笑むと、息を奪うように掠めるだけのキスをされた。



「幸せな夢見てるのか?」



………え?

寝てないよ、と言おうと思ったのに。



「………起きて見送られたら未練が断ち切れないから丁度いいのかな」



拾えないほど微かな独白に口を噤む。


私の頭を強く胸に押し付けて髪を撫でてくれる葉山さんの手は泣きたくなるくらい優しい。



「俺は弱いな。………何もかも欲しいのに、何1つ手には入らない」



好きだよ。葉山さん。

こんなときに自分が弱いと告げるズルいあなたが本当に好き。

でも、心の中ではこんなに叫んでいることを葉山さんが知ることは、ない。



「俺が葉山グループの社長じゃなかったら。生まれたときから決められたレールも婚約者の存在もなかったら、どんな人生だっただろうな。

もし俺が何も持たない男だったら、りぃは俺を愛してくれたのか?………いや、逆にこんな俺に振り向きもしなかったかもな」



ぽとりと落ちた涙がシーツに染みを作った。



「ドアは相手を確認してから開けて。次に好きになった奴に………愛してるなんて言うなよ」



嗚咽を堪えようと手を口元に運んだ私に葉山さんが気づかなかったのは、もしかしたら、



「…………本当に好きだ。愛してた。でも、もうお別れだ。……おやすみ、りぃ」



葉山さんも泣いていたからかも、しれないね。



ガチャン


聞き慣れたはずのドアの開閉音をどこか遠くに感じながらシーツを握りしめた。

葉山さん、葉山さん葉山さん。



「…………うっ……うえっ、」



どんなに泣いても頭を撫でてくれる優しい人はもう、そこにはいない。



「葉山さんっ……、好き……だったッ」



どこにも、行かないで。




  • しおりをはさむ
  • 56
  • 1284
/ 41ページ
このページを編集する