君との距離は【完】






《好き、大好きだよ》



今度は何を遮るわけでも、何に遮られるわけでもなく、しっかりと葉山くんの声だけが電波を通して耳に届く。


それは脳内を駆け巡って何度もリピート再生される。


きゅう、と心が締め付けられて痛い。痛い。苦しい。幸せ。


気付けば空いている右手は甘く痛む胸を押さえていた。服を掴んで幸せな痛みを味わう。でも、やっぱり苦しくて逃がすように服を掴んだ右手を離し握り、繰り返す。今度は指先が痺れるようにピリピリ。


自分からお願いしたことなのに構えていてもこれほどの効力を持つ彼の言葉は絶大なもので。


電波越しの少し掠れた音に色気を含んで、多分面と向かっては聞けないようなざらり、としたノイズ混じりの落ち着く声音。



「……明日も、電話したいな…」



口からつい出て来た気持ちは君の言葉への返答には相応しくない。でも、向こう側で葉山くんは優しく微笑んでいるような気がした。


あ、と思ったときにはくすり、小さく笑う息遣いまで聞こえてきて何だか恥ずかしくなる。
でも、言いたいことは言う、って2人で決めたんだもん。



《うん、じゃあ明日は待ってる》



こんなに優しい夜を私は知らない。


そして同時に葉山くんも私に電話をかけるまで、かける瞬間も迷ったのかな、と想像してしまった。私がずっとスマホを握って離せないまま悩んだように。


ほんの少しの短い幸せな時間は、



「……おやすみなさい」



明日からもきっと続く。



《……おやすみ》



離れ難いのにお別れの言葉を告げて。
お互いに自分からは切れなくて。


これが日常になることを信じて祈って。
せーの、で最後は笑いながら終了ボタンに指を触れた。





電波越しコミュニケーション





優しく耳を撫ぜる柔らかい低音は
いつでもどきどきさせてしまうので
取扱注意です






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