おやすみ、いい夢を

助けてとは叫べない /新しい暮らし

戸惑う等流の手を引き、千流は病院の駐車場に向かう。黒いセダンの鍵を開けると、千流は等流に助手席に乗るように促した。等流が乗ったのを確認すると、千流は運転席に座り車を発進させた。
千流は何もしゃべらなかった。ただ無表情で車を走らせる。
しばらく走ると、車はある高層マンションの地下に入った。

「ついたぞ、ここだ」
千流はさっさと車を降りてしまうので、等流は慌てて彼女のあとを追いかけた。
「そんなに焦らなくてもいい。すまんな、もともと口数が少ない性質なんだ、不安にさせたらすまんな」
千流は等流に微笑みかけると、等流の方にそっと腕を回して、マンションのエントランスに向かった。

「おかえりなさいませ、アルクーニ様。お客様でございますか」
エントランスに入ると、黒いスーツをびしっ、と着こなした体格のいい男性が2人を出迎えた。
「ただいま、黒田さん。客じゃない、今日から私といっしょに住むことになった」
等流は目を大きく開いて激しく首を横に振るが、千流はあっさりとそれを無視した。
「指紋認証と網膜スキャンの追加を頼む」
かしこまりました、と黒田は小さく頭をさげる。
「それではすぐに手続きいたしますね、こちらの書類に記入お願いいたします」
黒田は等流に向かっていったのに、なぜか勝手に千流が書類に記入を始める。
「・・・よし、これでいいだろう。等流、こっちにおいで、これであっているな」
等流はおずおずと千流が差し出した書類を受け取ると、目を通した。教えたことはないのに、なぜかフルネーム、生年月日が正しく記入されていた。思わず、等流はなんで、と口を動かした。
「なんで?少し調べさせてもらったといっただろう?ほら、あとは指紋と網膜の登録だけだ。黒田さん、頼む」
かしこまりました、と黒田は微笑むと、機械を取り出した。有無を言わさず、千流は等流にそれらを受けさせると、黒田にありがとう、と言ってマンションに入った。
おやすみなさいませ、という黒田の声がふたりを追ってきた。

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