舞蝶 1 -完-

第三章 /廉二-side-

“あの男、見つかりました”


その情報が入ったのは、土曜日、バイト先に美緒を迎えに行く前だった。


明日、美緒を買い物にでも連れて行こうと思っていた矢先。


「仕事か…」


美緒を待ちながら煙草を吹かす。


しばらくしてスタンドの裏に入って来た“フェラーリ”を視界の端に留めた。


笑顔の美緒が車から降りてきた瞬間、締め付けられる胸。


笑顔でいて欲しい。


そう思う反面、俺の為だけに笑って欲しいと嫉妬心が沸き起こる。


「…」


柄にもねぇ。


恋心に胸を痛める日が来ようとは、想像もつかなかった。


「廉二さん…」


申し訳なさそうなその声は、全てを知っていて何も言わない俺の所為だと溜息を吐く。


「お疲れ」


労いの言葉を掛けて、車に促した。


「明日は、何時までだ?」


横で身体を小さくする美緒に問いかける。


「…10時まで、です」


そう答えた美緒の声が―揺れた。

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