舞蝶 1 -完-

第四章 /廉二-side-

「あれ?嬉しそうですね、若」


買い物を済ませ、美緒をスタンドに送り、事務所で仕事を始めた俺に輝樹は驚いたような声を上げる。


「…ほっとけ」


その顔がやけに楽しそうで、俺は照れ隠しに書類を大きく広げた。


「美緒ちゃん、喜んでました?」

「―まぁ、たぶん」


戸惑いもしていたが、恐らく喜んでくれていたと思う。


カチャカチャといつもと変わらないキーボードを叩く音が、何故だかいつもより軽快に聞こえた。


「あぁ、そう言えば」


輝樹は思い出したと、持っていた書類をパタンと閉じ、こちらに視線を投げる。


「熊から、宿がなくなったと連絡が」

「もう、会った」

「え?」


はぁと溜息を吐いた俺に、輝樹は理解したように苦笑いを零した。


女が出来れば、その女の所に入り浸る熊。


つまりは、別れれば、必然と宿がなくなる訳だ。


うちは宿じゃねぇぞ、馬鹿熊め。


「美緒の部屋から一番遠い部屋にしてくれ」


投げやりにそう言うと、輝樹は「了解しました」と笑って承諾した。

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