舞蝶 1 -完-

第四章 /廉二-side-

“廉二さん、お世話になりました”


美緒は、そう言って俺の前からいなくなった。


俺の家に来た時のように小さな荷物を抱えて、今度は出て行った。


「…くそっ!」


部屋の壁に叩きつけた拳が真っ赤に染まる。


それでも、悔しさは拭い去れなかった。


一体、何があった!


美緒が離れたいと言った理由が分からないまま、時間だけがただ過ぎて行く。


何も話さなかった美緒。


どうして…っ。


何でだよ!


「廉二」


もう一度、振り上げた拳をパシリと掴まれた。


「離せ…今は、用はない」


ジロリと睨み上げると、呆れたと言うように藤二郎は溜息を吐いた。


「そんな姿見て、美緒ちゃんが何て思うか」

「……」


もう、見られる事もない。


そうだろ?


捕まれた腕を力任せに抜き取った。


「美緒は“元”の生活に戻った。それで良かったんだよ」


そうだ、それが、美緒の望みだったんだ。


普通の高校生の美緒が、ヤクザと関わりたいなんて思う訳ねぇ。


口に出して、やっと認めたくない事を受け止める。


だから、何も理由を言わないで…出て行った。


納得しようと頭では思うのに、込み上げる切なさに苦しくなる。

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