気ままな猫が溺愛中【完】


「…うん。そうだね。」


精一杯だった。見えていなかったものが、今なら分かる。


まだ遅くないよね。


「…今度、施設に顔を見せに行こうか。」


その秋人の言葉に、ゆっくりと頷いた。


お世話になった人たちに、お礼も言えていないんだ。近いうちに、会いに行こう。


優しくしてくれて、そばにいてくれて、支えてくれて、ありがとうございましたって。そう伝えたい。


理事長はどうしてこの花を植えたのだろうか。きっと、偶然の出来事なんだろうけど、運命を感じずにはいられない。


「綺麗だね。」


思わず出た言葉に、そうだねと返ってくる言葉が温かい。


こんなに綺麗だったんだね。あの時は、ただただ咲いている花に癒されていただけだったけど、意味を知るとこんなにも捉え方が違ってくるんだ。


「…水やりしないと。とってくるね。」


流れた涙を拭いて、そう言い立ち上がった。


秋人も立ち上がり、横へ避ける。でも視線は変わらず花壇に向けられていた。


お互いに思うことはたくさんある。今があるのは、間違いなく過去があるから。


少しずつ、向き合っていこう。


今はもう、一人じゃないから。


水やりをしながら、それらを噛み締めた。


「…小春。帰ろう。」


水やりが終わって、片付けた後、秋人はそう言って私の手をとった。


「うん。帰ろう。」


笑みを浮かべてそう返す。


二人で手を繋ぎ、学校を出た。


今日は寄り道して帰ろうか。まだ一緒にいたくてそう言うと、そっと強く握り返して嬉しそうに頷いてくれる。


もう幸せを願ってもらわなくても、十分幸せだ。


だから今度は、私たちが他の人のために祈ろう。


隣の愛しい人を見上げて、そっと微笑む。


今の幸せが、ずっと続きますように。


そう願わずにはいられない、ある冬の日。



ーーーーend

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