生贄x



音は漏れず唇の動きだけで伝えてきたラックに目を開くと、彼はスッと私から離れて獄さんを見据えた。


「ゼンちゃんが居るとギャーギャーうるさくて話にならないからまた出直すよ。」


そう言って背を向けるラックに声をかけようとした時…


「おい、てめえは俺のこと狙ってきたんじゃねえのかよ」


それまで黙っていた獄さんが静かな声で問いかけた。冷静さのある響きにラックは一度立ち止まってから


「狙う?それってどっちの意味?賞金?それとも…」

「どっちもだ。」

「まさか、俺は金にも君自身にも興味ないしどうだっていいもん。君の置かれた立場が欲しいだけ。」

「……」

「可哀想な奴だよね君も。悪人になってしまえば楽なのにさ。」

「うるせえよ…。」


ラックはそれだけ言ってクスクスと笑いながら立ち去っていった。

燃えるように赤い、ここまで圧巻な風景はいつぶりに見ただろうか。

ボンヤリとラックがバイクで走り去る様を見送っていれば、私の頭に獄さんの手がポンと乗ってきて…


「帰るぞ」


いつもより、その手は重たかった。


0
  • しおりをはさむ
  • 1994
  • 22269
/ 325ページ
このページを編集する