Spiral【完】

─ 0.


足が震える。

履き慣れない高いヒールのせいでないことはわかっていた。

手にしていたグラスを近くのテーブルに置き、私はなんとか震える足に力をこめた。

「野波さん?」

明らかに蒼白しているであろう私の顔をみて、駒谷課長が眉根を寄せる。

「野波さん、大丈夫?」

微かに震えている指先に触れられる寸でのところで、私は一歩下がって課長に頭を下げた。

「申し訳ありません。私、ちょっと化粧室にいってきます」

早口にそう告げて、会場のドアへと急いだ。
後ろから課長の声が聞こえたが、今は振り返る余裕がない。

早くここから出なければ……。

みつかってはいけない。
もう二度と会ってはいけない。

私は必死に会場の外へと飛び出した。

長く広い廊下に敷かれた毛足の長い高級な絨毯に、更に足がもつれる。


0
  • しおりをはさむ
  • 746
  • 10977
/ 450ページ
このページを編集する