Spiral【完】

─ 17.


昔から自分の人生にはきっと、神がかったような幸運はないけれど、その代わりに絶望的な不幸もないのだと思っていた。
つまりは平凡な人生をおくるのだと。

父がいなくなった時でさえ、捨てられたのだというショックはあっても“この世の終わり”のような絶望感はなかった。

だから今が予想だにしていなかった高さを誇る幸せの頂点であるなら、あとは速度をあげて落下するのみなのだと。

私は身をもって知ることになる。



「いつまで葵ちゃんで遊ぶの?」

誰もいない事務所を抜けて女性更衣室のドアをノックしかけた私は、寸でのところでその手を止めた。

中から聞こえた自分の名前に身体が強張る。
この声は、坪井さんだ。

立ち聞きなんてしたくない。
後ずさろうとしたのだが、遅かった。

「さぁ。婚約が決まるまで?」


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