華麗な野獣と愛人契約【完】

Footprints on the sands of time are not made by sitting down. /誓い


◆煌side




階下に降りていく安寿の背中を眺めながら、ゆっくりと息を吐き出す。



緊張した……。


自分を律するのが精一杯だった。



一昨日、酔っていた俺は安寿に手を伸ばしてしまった。


フラフラしている俺を心配そうに見つめて

あぶなっかしい手つきで

けれどおそろしいくらい真剣に、キッチンに立つ彼女を見て理性のタガが外れた。


ほっそりとした腰を抱き寄せ巻き毛の中に顔を埋めた瞬間、なんて口にしたらいいのかわからない、幸福感に全身が包まれたようだった。



たとえて言うのならそれは

俺の欠けた部分を、いっぺんの歪みなく埋めてくれるような、そんな感覚――



なんのために避けまくっていたのか――

これじゃまったく意味がない。



そのままキスしたいと思う気持ちをどれだけ理性で押さえつけたか……。



さっきの安寿は、俺を見て明らかに体を強ばらせていた。




キッチンでのことを思い出したんだろうか。


そう考えると納得できた。



俺が一方的に気に入っただけで、彼女は好きで愛人になったわけじゃない。

抱かれたいわけじゃない。



こんなに思い悩まなければいけないのなら

いっそ別のところに住まわせるか。

いや、そうなると身の回りのことが心配だ。

じゃあ俺が出ていくか――?



けれどこの家には俺なりの愛着がある。それも難しい……。



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