華麗な野獣と愛人契約【完】

Footprints on the sands of time are not made by sitting down. /二人が見つめる先の未来


アルバイト初日の朝。


がっちがちに緊張している私を見て、煌はやんわりと微笑み私のあごさきを指で持ち上げる。




「なにをそんなに緊張してるんだ」

「だって……私、変じゃないかって……」




煌の言葉に思わず自分を振り返る。


見慣れたはずの自分だけど客観的に見られない。


どこかおかしいんじゃないかって目で自分を見ていると、やっぱりおかしいような気がしてくる。


今日は朝からその繰り返しだった。




「変じゃないよ」

「ほ、ほんと……?」

「まるで今日の安寿は壊れたロボットみたいだな。ほら君は世界一美しい」




煌はさらっと甘い言葉をささやき、私を玄関の鏡の前に立たせた。



煌に貰った薔薇のブローチをつけたシルクのブラウスに黒いパンツ。

牛皮のパンプスは昨晩磨いたばかりで、まろやかな光沢を放っている。

髪は後ろで一つに結んだ。




「俺が客なら、君に接客してもらったあと間違いなくピアノを買う」




魅力的な声でささやきながら、リボンでまとめた私の髪に触れ、頬にキスを落とす。



唇の感触にドキッとしつつも、今の私はそんな甘いふれ合いも楽しむ余裕はない。


アルバイトは自分でやるって決めたことなのに、不安で泣いてしまいそうだった。





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