君がいないと、僕は歌えない

戻れない距離

転校してから一週間。私の状況は、最悪になっていた。


あの奏に嫌われているからだ。


見掛けがよくて愛想もいい奏は、中学の頃と同じように、この学校のリーダー的存在になっていた。


奏の好きなものは皆も好き。奏の嫌いなものは皆も嫌い。


その奏が、廊下で私とすれ違うたびに険しい表情になる。あの誰にでもいい顔をする奏が、私を見た時だけ不機嫌になってしまう。


そのあからさまな変化を、取り巻きの皆は見過ごさなかった。


その波紋は徐々に学年全体に広まって、私は完全に孤立するようになった。


もともと愛嬌のある性格じゃないのも、原因ではあるけれど。







「まったく、奏もガキだよな。キョーコのこといい加減許せって毎日言ってるんだけど、全然言うこと聞かなくてさ」


放課後。いつもの中庭で寝そべって空を眺めていたわたしのところに、りょーちゃんがやってきた。


こうして私に話しかけてくるのは、りょーちゃんくらいだ。


「気にしてないから。そういうのいいよ、りょーちゃん」


体を起こし、りょーちゃんを見上げる。すると、ギターケースを背負っているりょーちゃんが困ったように笑った。


「でもさ。奏のあの態度は愛情の裏返しってこと、分かってやって欲しいんだ。三年前、奏はキョーコのことが好きで好きで仕方がなかったから……」


「………」


俯き、夕風に揺れる芝生を見つめる。胸が、ぎしぎしと痛い。また疼き出した指先を、私は必死で握り締めた。

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