君がいないと、僕は歌えない

◆私のベースと君の声


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初めて一緒に演奏した日から、奏は毎日のように放課後私の家に来るようになった。


今度は塀から覗くわけじゃなくて、ちゃんと玄関を通って。時々、奏は自分の愛用のギターも持ってきた。


日没までの時間、私達は夢中でセッションをする。


奏の歌声はとても魅力的だ。


一度聴いたら耳から離れない。歌声が胸の奥にじわじわと浸透して、ずっとずっと残っている。


心の中の蟠りを、奏の歌声は全部さらってくれる。








それでも奏は、人前で歌ったことはほとんどないらしい。


奏はバンドをやっていて、はじめはボーカルをしていたんだけど、「なんか違う」って思ってバンドでは歌うのをやめたと言っていた。


それから奏はギターになって、でもギターはもう既にいるから、ギターが二人と時々ヘルプで来るドラムの人が加わるだけのへんてこなバンドになってしまったらしい。







奏は、ちょっと変だ。


そういう、歌が上手なのにピンとこないからってボーカルをやめてしまうところだとか。


人気者のくせに、ありとあらゆる約束を断って、放課後は私のところに来るところとか。


塀からわたしの部屋を覗いていたのも含めて、なんか変わってる。


でもそういう奏の変人なところが、私はなんだかいいなって感じた。





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