PURPLE Ⅰ【完】

保さんは黙って冷たい水の入ったグラスを渡してくれると、距離を取ってタバコに火をつける。


冷たい水が喉を通り『ふぅー』と息を吐く音と、タバコを吐く音が重なると


「朱織、やはり今日はキャンセルさせてもらおう。訳を話して日を変更すれば大丈夫だ」


タバコを持つ手と反対の手でポケットから携帯を取り出す。


「保さん、大丈夫だから!」


強い口調は保さんの動きを止め、やり切れない表情を引き出させた。


「ごめんなさい。でも本当に大丈夫」


「......」


帯があるので椅子に寄りかかれないジレンマが襲う。


背筋を伸ばすと胸の苦しみがましになったような気がした。


その間も保さんは私から目を離してはくれない。


「保さんの気持ちを無視するようでごめんなさい。だけどこれ以上延ばしたくはないの。あの人が仕組んだこの見合い、最初は釈然としなかったけれど...」


「ああ」


「でも待っている。蒼天(あおい)きっと私を待ってるから、だから...だから少しでも前に進みたいの。私のちっぽけなプライドなんか───」


『朱織』と突然話を遮られ思考が止まる。


「やきもちだ」


「えっ?」


意味がわからない......


「何て言えばいいのかな......娘に初めて彼氏を紹介される父親の気持ち?......みたいなやつだ」


保さんは頬を少し赤くしてバツの悪そうな笑顔をくれた。

0
  • しおりをはさむ
  • 1342
  • 5845
/ 314ページ
このページを編集する