この想いはきっと せいいっぱいの、初恋だった。【完】

そして、 /⚫













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冷たく固くなってしまった菫の頬を手のひらで包み、親指でなぞる。

微かに微笑んだ表情のまま、魂を消した彼女はとても穏やかな面持ちだった。







2ヶ月前。



なんの因果なのか。

偶然にも、職場の男から菫が聞き出した“ヨタ話”は、俺たちにとって関係深い現実そのもので。




初めは疑心暗鬼さながらな気持ちで真実を求め、探っていたけれど。

今となってはもう、ただの非情な現実でしかない。







犯人である男の父親は、世界で活躍する会社グループのトップと深いつながりがあり。



戸籍を動かし。
警察を黙らせ。
マスコミをも、ウソの情報を真実として報道していた。




そして、家族ごと海外へと移住し。

皮肉なタイミングで、犯人と、向こうで生まれた妹が、日本へと帰国する。







死にたくない、と。

涙を流し懇願する斉藤から得た情報と、奇しくもその妹が常連として訪れているBARが俺たちにとって縁深い場所だったこともあり。




トントン拍子で、報復は実現していったけれど。







全ての終わりを迎えようとしているこの瞬間になって、思う。




俺たちが生きてきた時間は、まるで。

大きな苦しみと小さな希望を抱えて戦う、壮大な冒険ものがたり、みたいだった。

現実味のない、永遠。










絶望しかない底辺の人生を歩む
哀れなコドモ






そんなものに、なってたまるか。
あんなクソみたいな大人に取り憑かれてたまるか。

俺たちの家族を、心の中心に咲く大切なナニカを奪った男に、取り憑かれてたまるか。




そんな一心で生きていた筈の俺たちが今回起こした行動は。

きっと、間違っていて。




愚かな判断で。
馬鹿げた復讐で。
幼稚な仕返しで。

決して、褒められたものではない。







それは、解っていた。
俺も、菫も。







報われないことも。
救われないことも。
意味がないことも。
変わらないことも。

もう2度と、帰れやしないことも。
あの時間に、戻れやしないことも。


全て、解っていた。







それでも。

俺の気持ちは、俺と菫にしか分からない。
菫の気持ちも、菫と俺にしか分からない。




だから、誰に理解されなくてもいい。
褒められなくて、いいから。







せめて。







「……俺たち、母さんにどやされるかな。菫。」




頬に残る涙の筋を指で辿っても、菫はもう返事をしてくれなかった。

そっと笑って、背の割に小さな菫の手を握る。




勢いよくナイフ突き立てた心臓が、どくどくと熱を持ち暴れた。







綺麗な彼女の黒髪が、涙と血で濡れていく。


瞼と意識が落ちる寸前、遠くから声が聞こえた気がした。












「おつかれ、薫。」
「菫も。おつかれさま。」
「がんばったな。」
「偉かったな。」









それはとても懐かしく、暖かい言葉。

4つの、柔らかい、微笑み。












「「「「みんなで、帰ろう。」」」」









小さな手と手を繋いだまま、大きな手と手をとったあの時間。

後ろで儚げに1本の木がゆれた瞬間と、同じ優しさだった。






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