at last

10月は気付き、 /創業は"難く"守成"も"難し



side:――







会員限定のとあるバー。


改装のため二週間ほど休業することになったはずの店には、灯りが点いていた。


そこにいたのは、マスターただ一人。



隣の部屋にはいつものように少年たちが集っているのだが、決して彼らはこちら側には来ない。



何の気なしに防音の壁を見つめていたマスターは、ふと呟いた。




「何でここに来たんだろう……」




店は休みなのだ。


来る必要もないのに、まだ作業途中の資材が辺りに置かれているのに。


何故か足はこちらに向いていた。




「何でかな、いや、仕方ないか」




その声に答える者などいない。


単なる独り言だ。



マスターの脳裏に浮かぶのは、彼の雇い主、つまりオーナーの顔だった。



拾いグセが酷いとオーナーはよく自身の叔父についてボヤくが、マスターに言わせればその彼もそんなに変わらない。


オーナーの拾いグセも相当だ。


自分もその一人であるから、彼にそう指摘することはないが。





改装途中の店に訪れる客はいない。



ぼんやり座り込んだカウンターからの視界には、いつもと反対の景色が望める。


いつもは自分が立っている場所。


ここはいつも、彼が座る場所。





座ってぼんやりし続けていると、夜になったのか通りのほうが騒がしくなってきた。



そこに。





―――――チリンチリン




戸が開いたことを知らせる鈴の音が聞こえ、視界を入口へと向けると。




「……どうも、お久しぶりです」



「……これは、珍しい方ですね。―――――早乙女さん」




拾いグセのある一人がやってきた。



マスターは穏やかな笑みで歓迎し、奥からとっておきの一杯を持ってくる。



カウンターで、二人並んで。



客と店主ではなく、旧来の友人として。





大人たちの夜は、人知れず更けていくのであった。










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