お女ヤン!!8【完】

★8 /薔薇に舞台








「―――兄貴。そこ置くのやめてくんない」



なんでいつも、そういうところに駒を置くかな。



俺は黒いルークの駒を右手で転がしながら、自分の目の前に置かれた市松模様のチェス盤上と兄貴を交互に睨む。それでも兄貴は涼しげな顔のまま、





「チェック」

「……」

「早くしろよ。次、千春の番だろ」

「パス」

「パスはないよ」




いいだろう、パスしたいパス。負けるのが嫌で、俺は窓の外に視線をすべらせ逃げ始める。


が、向かいの席にいる兄貴が、窓に腕を伸ばして重々しいカーテンを端にまとめながら穏やかに「早く、夜になる」挑発してくるのが視界に入りこんできた。



俺も人の事は言えないけど、こういうのを性格が悪いっつうんだろうな。




「また、兄貴に負けた」



ふてくされた声を自重せず全面に態度に出しながら、俺は盤上にある自分の黒い駒を適当に前に進める。



兄貴の次の一手がどうくるか、考えなくてもわかる。




「今日、これで負けるのは12回目だ」



確かそう。俺は兄貴に12敗。ここから俺がどう動いても兄貴の駒を回避する手段はない。



「違う。まだ11回目だ千春」




白と黒だけで彩られたチェス盤の光沢が綺麗だ。


そのなめらかな盤の上、兄貴が白いナイトの駒を、俺の黒いキングへとすべらせてきて―――――、



「チェックメイト」

「……兄貴は10歳の弟に手加減をするっていう言葉を知らない」

「してるのに、これでも」

「じゃあもっとしてよ」

「甘えるなよ」

「チェスなんてやっても楽しくない」




デザイン性にとんだチェス盤の上に佇む自分の黒い駒達を1つ1つ、憎しみを込めて指で倒していく。ルークもビショップもクイーンもナイトもポーンもキングも、倒れちまえ。


黒を着た駒を全て倒していきながら、俺は大理石のテーブルに肘をつく。



チェス盤に立っているのはもう、兄貴の所持する純白を着た駒達だけだ。





「俺の駒はイジメないのか」



ふと、兄貴に問われた。


俺は椅子の背に後頭部をつけ、ずるずると下に下がりながら首を振る。





「兄貴の駒は、イジメない」


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