お女ヤン!!8【完】

★8 /舞台、少し手前の役者達



――――――――――――――…………



「私がいない間に、星野宮家から招待状が届いてたんですね」



斉藤さんからのその一言で、あたしは千春の事を考えていた時間から抜け出し、我に返った。



視線を上げればいつの間にか、斉藤さんの手にはさっき千里から渡された手紙が………おおっ、ちょっと待って!




「う、うおおおおおっと。あ、ああそれね。街を出る前に、美春から渡されたの、スッカリキッカリサッパリヤッパリ忘れちゃって」

「そうだったんですか」



まさか千里が忍者化して、この屋敷にきたなんて言えないからなあ。


即興の嘘を繰り出して斉藤さんの顔を覗きこむ。


かさり、手紙を折りたたむ音。もう読み終わったのね斉藤さん。作業が素早い事で。



「いやあ、困ったね。でも参加できないよねえ」


斉藤さんの手から手紙をやや強く奪い取る。これは、しまった。斉藤さんがくる前にさっさと隠すか捨てるかすればよかった。




「なぜですか。星野宮の新企業のお披露目会でしょう。行った方がよろしいかと」

「……ちょっと待って斉藤さん。本気で言ってるの?」

「言ってますよ」


嘘でしょ。




「それってあたしにまた1回、あの街に戻れって言ってるって事だよ」

「嫌ですか」

「え、い、嫌だよ!何を言うてるのかこの人は!」



そんなのは嫌に決まってるじゃないか。



その場から離れて、端に置かれたローチェアに腰かける。背もたれには昔、斉藤さんから貰ったチェックのブランケットがかかってる。


あったかくて、懐かしい。



「ただ参加するだけじゃないですか。星野宮家からの正式なお誘いをお断りするなんて、らしくないですよ」

「らしくないって……」



切り返し早く言われて、あたしは一瞬ひるむ。



だけど嫌なものは嫌だ。珍しく、本気で嫌だと思ってる自分がいた。



斉藤さんに見つからなければ、この手紙は美春には悪いけど捨てて……なかった事にしようと思ってたのに。



しくじった。




「いや、戻るのはいいんだよ。だけど、まだ早いと思わないかい?だって、」

「あの街に、会いたくない人たちでもいるんですか?」




―――嫌だなあ。


長い年月一緒にいるだけあって、この人を騙しながら話すのは難しい。



駆け引きはしがたい。


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