お女ヤン!!8【完】




そこまで思い、凪はふと目を眇めて顔を斜め上にあげた。



ここら辺に立ち並ぶ家を数件すっぽりと飲み込みそうなほどでかい藤井の家の2階の開いた窓から、爽やかな色したカーテンがふわふわと揺れて外に顔を覗かせている。


少し前までそこに誰かがいた気配がなんとなく感じられた。



凪は目を更に険しく細める。


耳に開けて通したピアスが、今になって少し痛みを訴える。



「ついてきてもいいけどな、」


と、目の前にいた父親が口を開いた。威圧感ある声に、凪は思わず姿勢を正して顔を向ける。



「マジっすか!」

「ああ」

「俺なんでも手伝いますよ!あ、純さんネクタイ曲がってます!直しましょうか?」

「いい。オマエは気味悪いぐれェに俺にだけ態度が違うな」

「尊敬してるんで」

「…手伝ってもらう事はなにもねェよ」



いつもは後ろに流しているが、今日はラフにおろしている漆黒の髪を父親がかきわける。そのまま後部座席に緩慢な動作で乗り込んだ。



……手伝う事はなにもねえのか?


多少の残念さ。
凪がつっ立ったまま頭をかく。



(なんか手伝いぐらいしてえんだけどな)



自分にできる事があれば。
純さんに頼まれればなんでもするつもりはあった。あの日からそれは変わらない。



それだけ感謝と尊敬の念は強い。大げさじゃない話、殺しの1歩手前ぐらいなら引き受けてもいいぐらいだ。



だけどそこまで考えて、

(まあ、純さんが俺にそれを頼む事はねえか)

思って鞄を振り回す。



これからはどうかわからないが、息子にそんな事を頼む事をこの人はしないだろう。
頼んでくれても、いいけれど。



「凪、行くのか行かねェのか?オマエ、きても後悔すると思うけどな」


脅しのような一声が闇を切り取ったような黒い車の中から聞こえる。凪はかまわず頷いて、鞄を振り回す手を止めた。



「行きます」



ためらいもなくそう言って、父親が乗る後部座席に乗り込んだ。



車が発進する少し前、車窓の向こうで自分に似た顔の人間が2階の窓からこっちを見てる気がして―――凪は車内のカーテンを雑に閉めた。





0
  • しおりをはさむ
  • 20680
  • 5216
/ 464ページ
このページを編集する