優しい獣・Ⅴ[全完]

パーキングに向かいながら五十嵐さんが煙草を銜える。
今にも火が点けられそうなそれに、「歩きながらは駄目ですよ」と注意すれば五十嵐さんは目を見開いた。


「ガキが一丁前に」


と笑われもしたけど、煙草に火が点けられることはなかった。




帰りの車は、五十嵐さんの運転だとは思えない程丁寧だった。

・・・カーブでは窓に頭をぶつけたし、前の車が遅くて幾度も舌打ちをしていたけど。
でも、優しいと思えるもので、それを私は嬉しいと思った。


ただひとつ。
私の心に引っかかったものというのがあるとすれば、


「玲人さん、最近変わったことやってるだろ?」


そう問われたこと。

首を傾げた私に「気付いたことがあれば教えてくれ」と、フロントガラスを見たまま五十嵐さんが言って、どういう意味か問おうとした瞬間、車は屋敷に滑り込んだ。

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