背徳の新撰組

第一章

文久三年春ーー。


賑わう京の都。

その中を一人の女性が歩いていく。

旅をしてきたのか、手には風呂敷に包まれた荷物のみ。

不馴れな町中を歩いていく唯一の手段は、目的地が記された紙切れだけだ。

(もう!師匠ったら適当に描いてから……)

と、思いつつも地図を頼りに歩いていく。

すると、狭い路地を抜けた所で目的地に到着する。

(ここが……【新撰組屯所】)

ドーンと構えられた寺の門前を見上げる。

今日からここが見習い医師である彼女の仕事場だ。

新撰組はとても有名で、京から離れた江戸でもその評判は届いていた。

しかし、困ったことに新撰組には女は誰もいないのだ。

つまり、完全なる男所帯……。

なのになぜ、女である彼女がここへ来たかというと………。




………

………………


去ること、一週間前ーー。


彼女の名前は【有村桜子】。

幕府でも有名な医師【松本良順】の愛弟子として、女でありながら幼い時から医学を学んできた。

そんなある日。

松本は桜子を一人前の医師にするため、ある課題を出したのだ。

それは特定の場所へと行き、その場所で医師として経験を積むことであった。

それで、松本は信頼をよせる【新撰組】に桜子を行かせたのだ。

新撰組は完璧な男所帯。

女の桜子には不安でならない場所だが、男女の掟に厳しい場所だから問題ないと、松本は笑って桜子を送り出したのだった…………。

………

………………





て、なわけで現在に至る。

だけど、男所帯と聞いて、安心してホイホイと行く女はいないだろう。

やはり、江戸へ引き返すべきではなかっただろうか………。

「はぁ~……」

ため息を漏らす桜子。

(ううん!ここまで来たんだから、絶対に松本先生みたいな立派な医師にならなくちゃ……!)

不安な気持ちを振り払い、いざ新撰組の門を潜ろうとする。

すると……。

「こんな所で何してんだ?」

「!?」

驚いて桜子が振り返ると、背丈が大きく髪の長い男が立っていた。

「 ここは女子供が気安く来ていい場所じゃねぇよ。変な連中に絡まれる前に早く帰んな」

「 い、いえ!私はその……!」

「あれ?…桜子じゃないか!!」

「!」

声がする方を振り向くと、浅葱色の羽織を着た男の子が走ってくる。

「へ、平助君!?」

「やっぱり桜子か!久しぶりじゃん!!」

「きゃあっ!」

平助が桜子に抱きつく。

戸惑う桜子。

「おいおい……!こんな場所でイチャツクなよ……」

「ご、ごめん……!」

慌てて桜子から身体を離す平助。

その表情は何やら満更でもない様子だ。

「なんだ、なんだ?平助、もしかしてこの嬢ちゃんと知り合いなのか?」

ニヤニヤとしながら、意味深げに聞く男。

平助の顔が赤く染まる。

「か、関係ないだろ!?た、ただの……幼馴染だよ……」

モゴモゴと照れ臭そうに答える平助。

「へぇ~~」

「そ、そんなことより!な、なんでお前がここにいるんだ?」

久しぶりに見る幼馴染の姿に不思議そうにする平助。

桜子はそんな彼にニコリと笑いかける。

どうやら、ここで過ごす不安は少しは拭えそうである。

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