ホラー短編集/家族愛編【完】

第五話/ある取引

第五話/ある取引①


東京都在住 三原麻子(34歳)



”あの日”からすでに3年あまりが過ぎ去りました。
それは闘病中だった父がこの世から去る半年前に、私たち兄弟3人が父の家に集まった時のことです…。


...


「…オレももう長くはない。今日は、お前たち3人にこれからのことを告げておこうと思ってな」

私は兄2人を持つ末娘で、3人ともすでに結婚して子供も持ち、それぞれ親とは離れて世帯を構えていました。
父は前年に母を亡くし、この家に一人で住んでいました。

「…と言うことで、お前たちには残してやるものもなくて心苦しい限りだが、兄弟3人、協力して頼む…」

長く不動産業を営んでいた父ですが、商売は決して楽ではなく、終活の段階に入っても借金に追われる日々だったようなのです。
金融機関の担保に入っている今の自宅も、売却すればすべて借金に当てられ、父が他界した後、私たち兄弟が相続する財産は皆無という状態でしたから…。

「じゃあ、俺たちは帰るよ…」

ひと通りの話が済むと、二人の兄は父からの昼食の誘いも断り、さっさと帰ってしまいました。

結局、この日の昼食は父と私の二人きりになり、出前のラーメンで済ませたのですが…。

...


兄2人はともに、お嫁さんが父とはソリが合わず、末娘の私が夫ともども父と近しくしていることもあって、晩年の父とはほとんど口もきかない状態だったのです。

そして、父の告白が始まったのは昼食が済んだ直後でした。

「本当は真一と真二にも話すつもりだったんだが…。結局、麻子に全部頼むことになってしまうんだな…」

病気でやつれた父は、力なくそう呟くように漏らしていました。

「いいって。ウチのも、お父さんには力になってやれって、そう言ってくれてるしさ。兄貴たちなんかに遠慮することないよ」

私がそう言うと、父は嬉しそうに微笑を浮かべていました。

しかし、その後私が耳にすることになる父の話は予想だにしない、ショッキングなものでした…。






  • しおりをはさむ
  • 8
  • 252
/ 39ページ
このページを編集する