Freedom -sixth-【完】



もし私が10月にバリ島に行って、事件に巻き込まれていたなら――…。


「いつか私がいなくなったとき、夏樹が……ずっと私の感情に縛られたまま生きて欲しくないかなって……。もう無なんだって割り切ってくれる方がいいと思った」


このニュースを見るまで、死んでも無になりたくない。


夏樹を想う気持ちを残したいって、考えてた。


でも――…、本当に私が帰らぬ人となっていたら。


感情なんて残せない。


夏樹に想いを背負わせたままでは、辛すぎる。


「そんな簡単に割り切れっかよ――…」


「……――――」


「いや……、俺がそう思うなら……、お前も一緒か……――」




きっと、この時初めて夏樹は自分の置かれる環境を、自ら真意に受け止めたのかもしれない。



私が一緒にいるという意味も。





――台所に並べてあるお酒の買い置きが目に入る。


そこには去年山梨に行ったときに買ったワインがまだ残っていた。


綾子さん……。


あれ以来、ずっとお店に立ち寄ることに躊躇していたけど。


桜のママのこともあり、お父さんのこととは別に、同じ水商売のママという立場の綾子さんが気になった。


人間誰しも、明日は分らない――。


1つでも、後悔が少ない方がいい。


それは残された人間の心に留まる想いも。


もし桜のママが亡くなる前に、もう一度話し合えていたなら――今、私が抱える心の比重も随分違ったはず。


死ねば終わり――。


もう分かり合えることも無いのだから。


私は久しぶりに、綾子さんともう一度逢うことにした。







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