そして悪魔は口付ける

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彼はまさしく「学園のアイドル」だった。

彼は入学してきたときから学校中の女子のハートを奪って、キラキラと可愛い笑顔を振りまいて歩く。生憎、可愛い系は私の趣味ではなかったから、彼が視界に入っても私の心が踊ることはなかった。

そんな彼と私に接点が出来たのは3年の春、彼が2年生になったときだった。

その頃の私には好きな人がいて、意を決して告白したものの、彼女がいるという理由で見事に玉砕。金曜日の放課後の空き教室で、初めての失恋に打ちひしがれる。それを狙う悪魔が忍び寄っていることなんて知らずに、私はただ悲しみに暮れていた。

「先輩、男の趣味悪いですね。」

嘲笑うかのようなテノールの声。警報を鳴らすかのように全身に立った鳥肌。声のした方をむけば、今まで会話すらしたことのない彼が、じりじりと距離をつめてきていた。

「立花、慧…」
「あ、僕のこと知ってるんですね。」

みんなが可愛いと絶賛するはずのその笑顔が、何故だか怖かった。

「そっちこそ、盗み聞きなんて趣味悪いね。」

私が噛み付いてきたことが余程意外だったのか、立花慧の歩みが止まる。でもすぐにまた、黒い嗤いを浮かべてあっという間に私のすぐ目の前に立った。

「ねえ、なんで僕のこと知ってるの?」
「なんでって、あんだけ騒がれてて知らない方がおかしいでしょ。」
「じゃあなんで、僕じゃなくてあんな男臭いのが好きなの?」
「はあ?意味わかんな…」

私の唇に強引に押し当てられた柔らかい感触。小さく音を立てて離れたそれは、息をする間もなく再度、今度は深めに侵入する。いつのまにか彼に拘束された手首がどくどくと脈を打つ感覚が生々しくて、私は目を瞑ることも出来なかった。

「キスするときは、目を瞑った方がいいですよ。」

先程とは違う、いやらしい音を立てて離れた唇がぼそりと呟く。こんなことをされて嫌なはずなのに、身体の奥がギュッと搾り取られるような、内側から熱を帯びる感覚に思わず身をよじりそうになる。

「次からは、気を付ける。」

そんな私の返事にニタリと目の前に悪魔の微笑み。

かくして私と立花慧は、お互いの熱を共有する仲になったのだった。

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