隣の席の室井くん②【完】



エレベーターを降り
カードキーで玄関のキーを開けドアを開いてすぐ


いつもとは違う空気に気付く。



微かに匂う

甘い匂い。



ふと、視線を落とせば


女物のハイヒールが
乱雑に玄関に脱ぎ捨てられている。




思わず眉間に皺が寄る。

それと同時に溜め息が漏れた。



玄関先で足が固定されたようにその場に立ち尽くしていると



「翔~?帰ったの~?」




開け放たれたリビングの扉の向こうから



その甘ったるい匂いの主が顔を出しながら満面の笑みを浮かべていた。




「・・・勝手に入るなって何度言ったら分かるの」



リビングに足を踏み入れると、その匂いは更に強く鼻について


ますます眉間に力が入るのが自分でも分かった。



「何しに来たの」



「なぁによ~仕事の都合で久々にこっちに来たから可愛い息子の顔見に来たに決まってるじゃない」


照明の明かりに照らされてより一層白く映る肌に


長いウェーブのかかった
髪の毛


一見、清楚そうなイメージを持つ服装に身を包み

その人はソファーに深く腰をかけ髪を掻き上げる。


「だってアンタ、アタシがこうして来なかったら自分からなんて顔見せに来ないじゃない」



勝手に部屋に上がり
ソファーに寝そべって煙草に火をつける。


その光景は
何度見ても滑稽な程にミスマッチで、相変わらず、としか言いようがない。



白煙が、ゆらゆらと
天井に向けて上がっていくのを横目に


無言のまま部屋の窓を開けた。




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