隣の席の室井くん②【完】

16.ルドルフの赤い鼻






* * *






「ちょっと電話してくるね」



そう言って携帯を片手に室井くんが部屋を出て行ってから数十分が経つ。



買い集めた材料を切り、こねて丸めるという作業も通過し、既にフライパンの上ではジュウジュウと音を立てながらハンバーグが焼き色を付けていく。


見た目はハンバーグだ。

どう見てもハンバーグだ。

あやふやな記憶を手繰り寄せ、なんとかそれっぽくは出来たと思う・・・。




「・・・・・・・・・」



無言のまま室井くんが出て行ったドアを見つめるも
そのドアは開かれることはない。




ーー室井くんが、お母さんとの話を終え戻って来た時には、もうお母さんは車に乗り込んでいて


温和そうな笑みを浮かべ斎藤さんは綺麗に一礼し、素早くそれを追い


黒塗りの高級車は
アタシたちの前から去って行った。



「室井くん・・・お母さん、いいの?」



静かに白い息を吐く室井くんを見上げると


その顔は力無く笑みを作る。



「・・・寒いから、早く中に入ろう」



質問に返すことなく
アタシの右手を握ったその手は


さっきよりも冷たかった。



「・・・お母さんか」



フライパンから上がる湯気に溶けるように、アタシの呟いた小さな言葉が消えていく。



室井くんのお母さん。


とても綺麗で、はかなげで美しい人。


誰が見たって血の繋がりが分かるくらいに、室井くんとよく似た人。




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