星空の下、あなたの隣Ⅲ

8 /窒息



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トラと呼ばれる男が出て行ってから暫く。

私は、ただ呆然と荒れた部屋に突っ立っていた。
後ろからチヅが私の髪を撫でるけど、不思議なことにいつものような熱を全く感じない。

ただただ、あの男の置いていった強烈な残像と、独特な香りに、己の掌を握り締めることしか出来ないでいた。



…………やらなければならないことは、たくさんあるはずなのに。

体が、動かない。









そんな時、




「ぐっ……!!俺の予想を遥かに超えてきやがった……!」




「み、やび……」



頭を抱えながら天を仰ぐ雅が、扉のところで盛大な溜息を吐き出した。


「雅くんおかえり。どこまで車停めに行ってたの」

「ブレねえなあキラ……。なに我関せずみたいな顔してんだ。
その手に持ってる小説を今すぐ片付けて、お兄さんにこの状況を簡潔に説明しなさい。
ちなみにいつもの駐車場で不良に絡まれてました」



「雅くんに絡む不良とかどんだけ根性あるんだよ……。

俺達が入ったらもうこの感じだったよ。トラくんが来てたよ。ケンとハルが怪我してるくらいかな。以上」

「いや分かるか」

「あ、トラくんが鶴くんに喧嘩売ってた」

「うるせえこれ以上の面倒事は聞きたくねえ!」

「聞いてきたの雅くんじゃん……」




あーだとか、うーだとか、そんな風に唸りながら、そこらじゅう荒れ放題の部屋を見回した雅は、また大きな溜息を吐いた。


「取り敢えず掃除だな。いや、その前にケンとハルか」




そうだ、ケンちゃんとハルだ
あの二人をまず治療しないと。

特にケンちゃんは出血がひどい。早く病院に連れて行かないと……!










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