イベリスの悪魔

初恋の思い出

式場を後にした竜二は、今はもう誰も住んでいない古びた屋敷に身を潜めていた。
ホコリが舞い静まりかえる部屋…ボロボロになった壁から細い光が差し込み、それらが集まる場所に1台のピアノがある。
椅子に腰掛けスっと手を構える…ショパン【革命のエチュード】
荒々しくも美しい音色が部屋中に響き渡る。
それにはあの7年前の悲劇に対する怒りの感情がぶつけられた。
竜二はえれなを利用している晃と母親がどうしても許せなかった…そして晃が自分に行った事も…。
この7年間ずっと復讐の事だけを考えて過ごしてきた。
あの2人を殺す計画さえも立て藤山家に侵入した…しかしそこには偶然えれなの姿が…綺麗だと思った。
【夜想曲 第2番 変ホ長調】
今度は優しい音色が部屋中に響き渡った。
竜二はえれなを見て思い出したのだ。
幼い頃自分を慕ってくれた彼女を…勇気をだして自分に気持ちを伝えてくれた彼女を…


「えれなが大人になったら迎えに行くよ」

「それっていつ?」

「20歳になったらかな」

「そんなのやだっ!20歳なんてまだまだ先だよ?!あと7年もある……」

「大丈夫、ちゃんと待ってるから」

「…ほんと?」

「20歳になったら結婚しよう。それまでえれなも待てる?」

「…待てるっ。私…ずっと待ってるから!」

「じゃあ約束」


その瞬間彼の復讐の気持ちは消えた。
その代わり、彼女をこのくだらない縛りから自由にして幸せにしてやろうと思った。
それは彼女の母親の願いでもある。
ピアノの周りに置かれた大量の白いイベリス…その花弁が1枚、ヒラヒラと床に舞った。


- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -- - - - - - - - - - - - - - - - - -

竜二くんへ

突然の手紙を許してください。
私は愛する夫を失いました。
それはえれなにとっても悲しい事であり、決して許される事ではありません。
こんな事言いたくありませんが、私は藤山家の人間の仕業だと思っています。
あなたがこの手紙を読んでいる頃には私ももうこの世にはいないかもしれません。
そこであなたにお願いがあります。
どうかえれなを守ってあげて。
私達はいつもあの子の幸せを願っていたわ。
もう竜二くんだけが頼りなの。

えれなの母より



- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -- - - - - - - - - - - - - - - - - -

  • しおりをはさむ
  • 7
  • 2
/ 45ページ
このページを編集する