絶対快楽主義者(修正中)

黒、開演







ポタリ、と。

紅い滴が指先からこぼれ落ち、小さな音が響く。




生温い風が、殺伐と吹き抜ける。

眠らない街の喧騒は、この入り込んだ建物の裏側ではくぐもりぼんやりとした雑音のようにしか聞こえない。



月の光で微かに照らされたここは、まるで俗世から切り離された空間のようで。




そこに、"彼"はいた。



金糸のように上品な金の髪、整った輪郭。

すっと通った高い鼻に薄く形のいい唇と、長い睫毛に縁取られた瞳は明るい灰。



溢れ出す、憂いを含んだ色気。

精巧な作り物の如く、迂闊に触れるのを躊躇う程の儚くも美しい男だった。




"彼"の足元には数人の男が痣だらけで血を流し倒れている。

その中の一人に平然と置物のように腰を掛け、優雅に口に咥えた煙草を吸って、紫煙とともに息を吐き出す。


くゆりと立ち込める紫煙は夜を揺蕩い消える。




「楽しいなあ…」


落すような小さな呟きが響いた。




血に染まった手からまた一滴と血が垂れる。





“彼”は異様だった。




 

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