朽ち果ての王と宵闇烏 - 壱 -【完】

足から力が抜けて、地面に膝をつく。
そんな自分の1秒後の姿を脳裏に描きながら、耐えることを放棄しようとした。
けれど。

「姫様」

善の声と、不意に私の背に触れたその手のひらにはっとした。
ただ添えられただけの大きな手のひらは、しっかりと私の心を支えて。

「……善」

声が、出た。
震えて、今にも泣きそうで威厳も何もあったもんじゃない。
だけど善はそれに柔らかく微笑んで。

「はい、姫様」

いつもと変わらない答えを嬉しそうに返す。
そんな彼の手も、私に負けず劣らず真っ赤で。

「よし、姫さんそろそろ帰ろう。十季が待ってる」

わざと乱暴に、ぐしゃぐしゃと私の頭を掻きまわした羽衣の手も、きっと今までいくつもの血に塗れてきたのだろう。
十季を守るその為に。

そうだよ。覚悟はしてたじゃない。
必要ならばこの手で誰かの首を刎ねる今日のこと。
だけどまだ甘かったんだろう。
覚悟が足りていなかった。
だからって、今日私の手が血に塗れたことは変わらないのだから。
歯をくいしばって、今は耐えるしかないんだろう。

羽衣に促されて、私は歩き出す。
けれどその前にもう一度、小さく息を吸って巴の副官だった男の亡骸を見つめた。

あの時、私の前に立ちはだかって剣を構えた猛々しい表情のままに固まっている男の顔。
最期の瞬間、彼は一体何を思ったのだろう。
何を感じたんだろう。
分からないけれど――どうしても祈らずにはいられなかった。

死した今、どうか、どうか安らかに。
その祈りが、結局は自分の為のものなんだって知ってはいるけれど。

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