湿った世界の片隅で【完結】

Act.7 /一線を引いた日

 
いつものように、せっせと残業に励んでいたときのことだった。

照明の下りたオフィスには、俺と大和の二人しか残っていない。

そんな中、俺の間の抜けた声が零れた。



「…は?」

「だから、てめぇと会って話がしたいんだってよ。彼女」

「…は?」

「は、じゃねぇよ」



いちいち面倒くせぇな。

そう言って、盛大なタメ息を吐いた大和からは、束になった資料が否応なしに飛んできた。

次の会議で使うらしい資料を、俺は額のど真ん中で受け止める。

うっ、と悲痛な衝撃に息を詰めると、大和はパソコンのほうへ向き直るなりカタカタとキーボードを叩き始めた。涼しげな双眸には、文字の羅列がチカチカと映し出される。


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