波涛(はとう)の月

次郎の目に涙が浮かびはじめた。


次郎の前には爆弾で引きちぎられた小さな手が転がっていた。



(間違いないさっきのあの子の手だ・・・)



次郎は体が震えだし涙があふれだした。



(おれば子供はいないが、なんだかこの子の親の言葉にあらわせない気持ちがいたいほど解るような気がする。)



むろん次郎は恋人の幸が自分の子供を妊娠していることはまったく知らない。


たが、この時の次郎の感情は紛れもない子を持つ人にしか理解できないものであった。


次郎に何ともいえない怒りが襲ってきた。


この怒りは日本軍が避難民にした理不尽きわまりない残酷な虐待への怒りなのか、敵の無差別攻撃への怒りなのか、はたしては何もできない自分の無力さへの怒りなのかは、当事者の次郎にすら解らなかった。

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