眠り姫は夜を彷徨う【完】

いらだち

「くそっ!」

桐生は不機嫌を隠すことなく眉根を寄せると、歩きながら吐き捨てるように言った。

キレのある整った顔立ちが苛立ちを含むと最高に怖いですよ、と以前何かの時に立花に言われたことがあるが、今の顔がまさにそれなのだろう。周囲を歩く同じ制服を身に纏った生徒たちが桐生の周囲を避けるように距離を取って歩いている。

まるで『触らぬ神に祟りなし』と言わんばかりに見ぬふりを決め込む彼らの視線さえも煩わしく感じて、桐生は小さく舌打ちをした。


噂の掃除屋と初めて対面した、あの夜から数日。

桐生は何度か同様に彼女とチンピラの類いが争っている現場を目撃していた。実際のところ『争っている』というよりは、一方的にその他大勢の者たちが掃除屋一人に伸されている場面だったりするのだが。

だが、そこにすかさず桐生が彼女に近付こうとすると、何故か毎回するり…とかわされ、逃げられてしまっていた。


オレはアイツを捕まえようとしている訳じゃない。とりあえず今の時点では会話がしたいだけだ。

(アイツの返答次第では、その後のことは分からねぇけどな)

だから、噂の人物を倒し、名を上げようと躍起になっている連中とは目的が違う。だが、奴にとってはそんな目的など関係はない筈だ。世の中の悪を…己に向かってくる敵をただ排除しているのならば。

あれだけ徹底的に片っ端から全員伸してしまうようなヤツが、何故しつこく追い掛ける自分には向かって来ないのか。

(話し合いのテーブルに着く気はないが、殺気のないヤツには興味もないってか)

何だか面白くなかった。

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