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「お願い、すぐに帰ってきてね?」

「うん。分かってる。」


地上へと続く階段の下で、私は亜三くんの腕の裾を離せずにいた。

亜三くんが少し困った顔をしている。
それを見て見ぬ振りをした。
こうしていれば少しでも気持ちが揺らいで残ってくれるかもしれない。そう思うと、私の亜三くんを掴む手はより一層力が入ってしまう。


また傷だらけで戻ってくるんじゃないかと、不安でたまらなかったから。

…前の傷だって、まだ癒えていないのに。








今朝眼が覚めると、亜三くんが優しい表情で私を見つめていて。正直、恥ずかしくてたまらなかったけど…凄く幸せだった。


「長谷川からの連絡で、気になることがあるんだ。地上に行ってくるよ。」


…その言葉を聞くまでは。



私は分かりやすく落ち込んだ。


だけど…引き止めることが果たして正しいのか。
亜三くんは、私のためを思って行動しているのに。



…さまざまな思いが交差した結果。
「行かないで。」の一言は、私の口から出てくることはなかった。







「…シロ、エリちゃんのこと頼んだよ。」



亜三くんが数段登った階段の上からシロを見下ろした。

シロは亜三くんのお願いを聞き入れたのか、彼を一瞥した後すぐにダイニングルームへと去って行く。




「亜三くん、怪我しないでね?絶対だよ!」


亜三くんを追いかけ階段を登る。感極まり涙すら浮かんできたどうしようもない私に、亜三くんは頬にキスをしてきた。




「僕は大丈夫だよ。
…必ず、エリちゃんの元へ帰るから。」


出会った頃よりも格段に広くなったその背中を私は見上げ続けた。









扉が閉まるその瞬間まで。





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