彼女の体内昼寝時計。[完]





これはさっき確認した事だが、榎本さんの腕は少し赤くなっていた。

俺も見ていたし、兎が榎本さんの腕を掴んだのは間違いないだろう。

だが、何故兎が榎本さんの腕を掴むような事になったのか、それを知る必要がある。




「何か、あったんだろ?」

「……」

「何かあったのなら教えてくれ、」




榎本さんは急に、と言っていたが…

兎が理由もなくそんな事をするとは思えない。

いくら好きな榎本さんでも、その意見を聞いてすぐに信じるという事を俺は出来ない。




「何にも、無いよ」



なのに、どうしてなのだろう。

聞いたその直後、俯いた兎から返って来た言葉は…



「エノモトさんの言う通り、あたしが悪いの」



俺が聞きたかった物では無かった。

いや、俺が期待しすぎていたのかもしれない。

そうやって聞けば、兎が答えてくれるのではないかと、勝手に思い込んでいただけなのかもしれない。




「あたしを、怒りなよ。トラ」








顔が上がって見えたのは、意志の強いその瞳。

少しの動揺も見せず、微動だにしない眉毛。

動いたのは、薄桃色の唇。

嘘ではない。真実だ。

まるでそう言っているように、俺に向けられた漆黒に。


誰かの背後で笑う者。

そして、その瞳を見つめて冷静を保っていた心が沸騰したように熱くなった者。

二つの存在が大きな変化を見せた。



0
  • しおりをはさむ
  • 65
  • 953
/ 704ページ
このページを編集する