彼女の体内昼寝時計。[完]





「だけど、トラは違います。

初めて会った時も、一緒に暮らしていた時も、差別なんて絶対にしなかった。むしろ、間違っている事を正してくれた優しい人です」


買い被りすぎたと言いたいくらい、兎は俺の事をその人に言い続けている。

兎には俺がそう見えていたなんて、初めて知った。



「何度も言います。

私を自由にして下さい」



暴走している兎を止めた時、あんなにも反発してきたのに今ではこんな風に考えているなんて…

反抗期が終わり、大人になった子供を見ている親の気持ちになってしまった。

兎がここまで成長したなんて、俺は嬉しい。

涙が出そうだ。



「……そんなに、自由が欲しいのか」

「はい」

「どうしても、か?」

「はい」



緊張が走る中、兎とその人は静かに会話をする。

兎の意思は固く、狼狽えていたその人は半ば諦めた様に質問を繰り返す。



「…そう、か」



目の前に見えていた茶色い革靴がくるりと向きを変えてポツリと呟いた悲しげな声が木霊する。

柊さんと顔を見合わせて、前を向くと、



「なら、行きなさい。

もう私が何を言っても無駄だろうから、」



その人は俺達に背を向けて、そう呟いた。

ガチャリ。

目の前の扉が開いて、その人は振り返らずに中へと吸い込まれて行く。



「烏丸くん、」

「は、はい」

「娘をよろしく頼んだ…」



扉が閉まる前に、俺の名前を呼んで兎の父親はそう言い渡し、俺も立ち上がって返事をする。

兎は小さな手で俺の腕を掴んで、少し安心した表情を浮かべて隣に立つ。



「兎、」

「…、」

「幸せに、なりなさい」

「…はい」



最後に見せた父親らしいその姿をしっかりと目に焼き付けて、俺は兎の事を抱き締めた。



虎side END


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