よみや高校怪奇倶楽部〜こわがりな先輩と最強守護霊憑いているちゃん〜

第二話 何かがついてくる /その伍

「この前のすごい子いたでしょ。男虎さんっていう。僕のクラスの子なんだけどね。あの子、郷土研究会に誘っておいたから。今日の放課後、部室に来るよ」
「は? 急だな!」

 教員用の下駄箱と生徒の下駄箱は場所が分かれている。それぞれの下駄箱に向かうために別れるということでそんなことを言われて、駿は面食らった。

「急って言っても、早めに声をかけとかないとね。あの子、人付き合いがうまいから他の部活に誘われても困るし」
「それは、そうだけどさ……」
「というわけだから、放課後に備えて心の準備をしておいてね」
「え、あ、はい」

 言いたいことを言うと、源はさっさと歩いていってしまった。仕方がない。彼が向かうのは職員室、駿が向かうのは教室なのだから。
(心の準備って、何すりゃいいんだ……)
 ひどく戸惑いながら、駿は自分の教室まで歩いていった。


 金剛力士像のような守護霊を背負った後輩が放課後にやってくると聞かされた駿は、結局心の準備のために何をすればいいかわからなかった。だから歴史の教科書を開いて金剛力士像の写真を見たり、スマホで金剛力士像のことを調べたりして過ごすことしかできなかった。
 写真を改めてじっくり見て気づいたことだが、金剛力士像は顔は怖いものの別に圧は感じなかった。あの女子の背後にいるものに感じた圧は、やはりあれ特有のものなのだなと理解した。そのこと以外、特に収穫はない。
 準備という準備もできないまま、駿は放課後を迎えた。HRが終わるや否や、猛ダッシュで教室を飛び出して特別棟に駆け込んだ。
 “会長”特典で持たされている鍵で解錠し、地学準備室に入室した。
 教室ではほぼ誰とも話さず、朝と帰りは源にべったりで、部活に熱心ななめ授業が終わるとすぐに郷土研究会の部室まで走っておく男――それが周囲の駿に対する印象で、怪しさと意味不明さが満載だが仕方がない。学校にいる間、落ち着くのはここだけだ。それに“部活に熱心”というのも、ある意味で嘘ではない。

「……いつ来るんだよ」

 自分がものすごく早く部室に着いていることを棚に上げ、駿はそわそわしていた。本当はあまり来てほしくないのだが、来るなら早く来てほしいなどと矛盾したことを思ってしまうのだ。そして、実際に来られると動転してしまう。

「失礼します」
「うわっ!」

 そわそわと落ち着かない気持ちで待っていると、唐突に戸が開いた。声がかかるのと同時だ。
 戸の向こうには、今日も相変わらずひょろっと背が高い眼鏡の源と、この前の小柄な女子生徒が立っていた。その背中には、金剛力士像のような守護霊がいる。

「二年四組の男虎琴子です。今日は見学に来ました」
「え、あ、三年二組の、小幡です」

 金剛力士像を背負った琴子は、とても愛想よく挨拶をしてくれた。源が言っていたように、人間付き合いがうまそうだ。
 そして驚いたことに、背後の金剛力士像も、ものすごい笑顔を浮かべて駿を見ていた。歯をカッと見せて、まるでアメコミのヒーローのような笑顔だ。

「こ、こ、こ……!」
「こ?」

 まさか金剛力士像のような守護霊にヒーロースマイルを向けられると思っていなかった駿は、大いに戸惑った。だが、そんなことはあとの二人には伝わらないわけだから、変な声をだしたことを不審な目で見られてしまった。

「こ、コトラって感じだよな。オノトラじゃなくて」

 何とか誤魔化さなければと、苦し紛れにそんなことを言った。琴子は一瞬キョトンとして、それから人懐っこい笑顔になった。

「私、小さいですもんね。それにオノトラコトコだからコトラっていうのも、いいですね」
「お、さっそくあだ名をつけたのか。いいね」
「じゃあ、先輩は“こわたん”先輩にしましょ」
「お、おう……」

 源のナイスアシストもあって、金剛力士像みたいな守護霊に驚いてしまった駿の変な声は、琴子のあだ名をつけたということに着地した。ついでに駿も変なあだ名をつけられてしまったが、誤魔化せたのならいいと思うことにした。

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