よみや高校怪奇倶楽部〜こわがりな先輩と最強守護霊憑いているちゃん〜

第三話 よそみはだめだよ /その肆

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 駿にとって、学校という場所はひどく居心地が悪い場所だ。
 それは幽霊や得体の知れないものがうようよといるというのもあるが、様々な種類の人間が集まる分、“憑いている”人間にもよく遭遇してしまうからだ。
 もろに死霊や生霊を肩に乗せている者もいれば、何やら形を成していないが禍々しい念のようなものをまとわせている者もいる。
 そういった者たちと同じ空間にいるのもつらいし、近づかれれば気分が悪くなる。だから、感じが悪いと思われようと不良と勘違いされようとも、なるべく人と接点を持たずに過ごすのが理想的だ。
 だが、駿のほうからいくら避けようとも、積極的に関わってこようとする者もいる。三郎丸という教師もそのひとりだ。
 誰とも関わりたがらず、たまに教室を抜け出してしまうような問題児を手懐けているということで、源は他の教師たちからの評価がいい。本人ののほほんとした穏やかな気質もあるだろうが、駿に懐かれているということで謎の信頼を勝ち得ている。
 三郎丸はそれを見て、自分も駿を手懐けたいと思っているのだろう。ことあるごとに絡んでこようとする。駿の選択科目が地理で、三郎丸の担当が日本史だから関わり合いになる必要などないのに、露骨に近づいてきてくるのだ。
 しかし、三郎丸は駿の嫌いなタイプだ。ただ単に人間として気に食わないくらいなら、駿も何とか目をつぶっただろう。だが、三郎丸はいつもよくないものを肩につけている。だから近づいてきてほしくないのだ。
 三郎丸の肩についているのは、女性の手だ。肌色のものと、もうすっかり人間の肌の色ではなくなったものだ。女性のものだと判断したのは、その手の形と、鮮やかに彩られた爪を見たからだ。
 テレビか何かで見た情報が正しければ、まだ皮膚の色が肌色のものは死んで間もないか、まだ生きているものの霊らしい。つまりは、生霊ということだ。
 三郎丸は死んでもなお離れがたいと思っているような女性の霊と、魂の一部を飛ばしてしまうほど思いつめた女性の生霊を肩につけているということになる。
 軽薄な雰囲気からして、きっと女遊びがひどいに違いない。それこそ、死霊と生霊のダブルで憑かれるような生き様なのだ。女子に対する軽々しい接し方からもわかる。
 だから、駿は心の中で三郎丸のことをひそかにヤリチン丸と呼んでいる。肩の上の手は増えたり減ったりするから、ヤリチン丸はとことんとんでもない男ということだ。
 この三郎丸はひどい例だが、駿の見立てでは人間は何かしらに憑かれているか嫌な気をまとっている。いつもは健全な人間でも、何かあれば何かしらに憑かれるのが現実だ。源や琴子のような背中に強い守護霊を背負っているような者は、かなりレアなのだ。
 そんなわけだから校内を歩けば単独幽霊だけでなく、人に憑いた悪しき存在を見かけてしまう。そのため、何気ないふうを装って歩いているつもりでも、唐突にとんでもないものが目に入ってものすごく慌てさせられることもある。
 この前も、ジュースを買いに行こうと自販機まで歩いているときにどえらいものが目に入ってしまって、ものすごく怖かった。

「こわたん先輩!」

 いつもはなるべく下を向いて歩いているのだが、呼ばれて駿は顔を上げた。
 そんな変な名前で呼んでくる存在なんて、琴子ひとりしかいない。だから、安心しきっていたというのもある。

「なっ……!」
 
 琴子の隣には、友人と思しき女子がいた。そしてその女子は、何かわからないものを背負っていた。
 その存在感からすれば、守護霊に近いものがある。だが、絶対に守護霊でないと言い切れるのは、それがまとうあまりの禍々しさだ。
 それは灰色の靄(もや)のようなものをまき散らしながら、その女子の背後で揺れている。揺れるたび顔の部分が歪み、端正にも見える顔がまったく別のものに見えるようになる。
 そして何よりそれが異様なのは、琴子のことが嫌いなのかたびたび牙をむくみたいな顔で悪態をつくような仕草をするのだ。そして穏やかな顔になって自分が憑いている女子生徒を見つめる。
 そんなものを見るのは初めてで、駿は琴子からの呼びかけにろくに応えることができなかった。曲がりなりにも同じ部に所属しているのだから、手を振るなり返事をするなりしてやるべきだったのだろう。いくら人と接するのが苦手といっても、そのくらいのことはできるつもりだ。
 だが、琴子の隣にいる女子の背後に気を取られるあまり、そんな最低限のことすらできなかった。

(何あれ? 友達? やばいの連れてた……でもコトラの金剛力士像、無反応じゃん。なら、無害? いやいやいや……)

 頭の中でいろいろ考えたものの、結局答えが出なかった。だからせめて放課後琴子に会ったらあげようと、彼女の分まで飲み物を買うくらいしかできなかった。

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